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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)1938号 判決 1993年12月21日

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件を奈良地方裁判所葛城支部に差し戻す。

理由

第一  申立て

一  控訴人ら

1  主文と同旨

2  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

(本案前の答弁)

1 本件控訴を却下する。

2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

(本案の答弁)

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  事案の概要

一  本件は、控訴人らが、人格権や環境権等に基づき、被控訴人らに対しゴルフ場建設工事の差止めを求める訴えを提起したところ、原裁判所が、右訴訟の目的の価額は九五万円に控訴人らの人数を乗じた額であるとし、この価額に応じて算出される訴え提起の手数料を納付すべき旨を命じ、この補正決定に応じなかつた控訴人らの本件訴えを判決をもつて却下したため、控訴人らがこれを不服として控訴した事案である。

二  争点

本件訴訟の目的の価額(訴額)。

第三  争点に対する判断

一  控訴人らの本訴請求は、経済的利益を直接の目的としない権利関係に関する請求であるから、非財産権上の請求に当たるものというべきところ、一つの訴えをもつて数個の非財産権上の請求が主観的に併合されている場合、非財産権上の請求についても「訴えをもつて主張する利益」というものと観念することができないわけではない以上、その訴額は、民訴法二三条一項に準じて、各請求の擬制訴額である九五万円(民事訴訟費用法四条二項)を合算して算定するのが原則であるというべきであるが、その数個の請求をもつて主張する非財産的利益が全請求について共通であつて、それぞれ独立したものとは認められないようなときは、これを一個の請求と同様のものとみて、訴額も合算しないこととするのが相当というべきである。

二  そこで、控訴人らが本件訴えをもつて主張する非財産的利益が全請求について共通であると認められるかどうかについて検討するに、本件訴えは、要するに被控訴人らが奈良県吉野郡吉野町の吉野山の西側に隣接する山間部に建設を計画しているゴルフ場の建設工事の差止めを求めるものであつて、この訴えをもつて主張する利益は、同ゴルフ場の建設が中止されること自体であるから、その利益は控訴人ら全員を通じて共通のものと認めるのが相当というべきである。控訴人らは、差止めを求める法的根拠として、人格権、環境権、自然享有権、歴史的景観権等を主張しているけれども、個々の控訴人らに帰属すると主張するこれらの権利が侵害されることによつて現に発生し、または発生するおそれのある各人固有の不利益の回復または予防を本件において求めているわけではないから、差止めを求める法的根拠として、控訴人らが右のような権利を主張しているからといつて、本件訴えをもつて主張する利益が各控訴人ごとに別個独立に存在するものといわなければならないものではない。

三  そうすると、本件訴えの訴額は控訴人ら全員について合算しないこととすべきであるから、結局九五万円ということになり、この価額に応じて算出される訴え提起の手数料の額は八二〇〇円となる。

第四  結論

以上の次第で、原裁判所の本件補正決定には訴額の算定、ひいては訴え提起の手数料の額の算定を誤つた違法があり、その誤つた手数料を納付しないことを理由に控訴人らの本件訴えを却下した原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消したうえ、民訴法三八八条により本件を原裁判所に差し戻すこととする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤原弘道 裁判官 白井博文 裁判官 原田 豊)

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